2015.Sep.28
初めまして、
今年の3月よりセルディビジョンに入社しました、小牧と申します。
セルではなぜか、「コミック」や「コミ太郎」と呼ばれています。
どうぞよろしくお願いいたします。
今回は、秋も深まり、「芸術の秋」ということで
先日のシルバーウィークで私がお邪魔したTokyo Art Book Fair 2015について書きますね。
まず "Tokyo Art Book Fair" とは...
THE TOKYO ART BOOK FAIRは,2009年にスタートしたアート出版に特化した日本で初めてのブックフェアです。
年に一度のペースで開催し,個性豊かなアートブック,カタログ,アーティストブック,
そしてZINEなどを出版するアーティストや出版社が一同に集結する場所として着実に成長し,
アジアで最大規模のアートブックフェアとなっています。毎回,国内外の出版社やギャラリー,
アーティストら約300組が出展,3日間のイベントながら,1万人以上の方にご来場いただいています。
先進的なブックメイキングを続けるアーティストや出版社が作る魅力的な出版物で彩られたブースのほか,
特別展,トーク,スクリーニングなどさまざまなイベントを会期中に開催しています。
THE TOKYO ART BOOK FAIR は,アジアにおけるアートブック文化を牽引するフェアになることを目指し,
ユニークな進化を続けるアートブックの世界観を体感することができる機会を創出しています。
(-Tokyo Art Book Fire 2015公式サイトより引用)
という、要するに自分の作品を自費出版したり、
または本を作品の媒体とするアーティストたちが中心になり催す本のお祭りのようなものです。
そしてアーティストだけでなく、書店や印刷会社、製紙業、インキ製造業の方なんかも参加し、
新しい「本」の形が見れたり考えれたりするイベントなのです。
近年、電子書籍が主流になる動きの世の中で、とてもプリミティブなイベントだなぁと思います。
今回私が一番目当てにしていたのは、
オランダのブックデザイナー Irma Boom(イルマ・ボーム)さんの講演会です。
Irma Boom / イルマ・ボーム
アムステルダムをベースに活動するグラフィックデザイナーで、主にブックデザインを手がける。
イルマ・ボームはエンスヘーデのAKIアートアカデミーでグラフィックデザイ ンを学び、卒業後、
ハーグにあるオランダ政府の出版印刷部門で5年間勤務。1991年にイルマ・ボーム・オフィスを設立、
文化関連、商業関連のデザイン を国内外問わず手がけ始める。これまでに手がけたコミッションワークは、
アムステルダム国立美術館、実業家パウル・フォン・フリンシンゲ ン (1990-2006)、インサイド・アウトサイド、
ニューヨーク近代美術館、クラウス王子基金、プラダ財団、マセラティ、ヴィトラ、NAi出版、国連、
OMA/レム・コールハース、王立ティヒラー・マッカム工房、アガ・カーン財団、イエール大学出版部、
バード大学院、サーペンタイン・ ギャラリー、テー ト・モダン、シャネルなど。
1992年以降はアメリカのイエール大学でシニア・クリティックを務めており、
世界各地でレクチャーやワークショップ を開催している。
これまで手がけたブックデザインで多くの賞を受賞しており、その活動が認められ、
栄誉あるグーテンベルク賞を歴代最年少で受賞。
2014年のヨハネス・フェルメール賞(オランダ王立芸術賞)を、教育文化科学大臣の
イェット・ビュッセマーケルから授与されている。選考委員会は、全会一致でボームを推薦、
グラフィックデザインにおける彼女の比類なき活動が認知された結果といえる。
(-Tokyo Art Book Fire 2015公式サイトより引用)
イルマの作品は、その20%がNYCのMoMAに所蔵されていることでも有名です。
彼女の存在を知ったのは学生時代の事なのですが、
彼女のデザインした書籍に実際に見て触れただけでファンになってしまいました。
彼女のデザインには人を惹きつける数々の「仕掛け」が施されているのです。
今回、来日ということで、これは行くしかない!と定員制の講演会に即応募。
行ってまいりました。
彼女の講演会の全貌を語ってしまうと長くなってしまうので、
印象的だった作品を1つピックアップします。
Source: http://www.typographischegesellschaft.at. License: All Rights Reserved.
Sheira Hicks : Weaving as Metaphor
−シーラ・ヒックス『ウェービング・アズ・メタファー』
参考:http://fontsinuse.com/uses/4337/shiela-hicks-weaving-as-metaphor
パリ在住の「編み」が主なテキスタイルアーティストの作品集です。
シーラがアメリカの出版社から作品集を出版する際に、直接イルマにデザインを頼んだそうです。
こちらの本の大きな特徴をあげますと、
❶表紙が「白」く、彼女の作品がエンボス加工で印刷されており、本来表紙に載るべき作品写真は裏表紙に入っている
❷本の天地、小口部分の裁断が切りっぱなしの布のようにギザギザしている
❸中の文章部分の組みが読み進めるに連れ、フォントが小さくなっていく
など...本当はもっとありますが。
今回の講演会で、彼女はなぜこのようなデザインにしたのか、出版までの裏話を教えてくれました。
Source: http://designblog.rietveldacademie.nl. License: All Rights Reserved.
❶表紙が「白」く、彼女の作品がエンボス加工で印刷されていることについて
本来、本の表紙といえばほの本の「顔」と成る部分なのでその本の内容がわかる写真なり、
タイトルなりがわかりやすく印刷されるものなのですが、彼女はそうはしませんでした。
「シーラの作品は、あらゆる人に見て貰うべきものだと感じました。
もし、作品のテキスタイルをそのまま表紙にしてしまうと、
その分野に興味のある人しか見ない本になってしまうと思ったのです。」
Source: http://www.flickr.com. Image via David Cabianca. License: All Rights Reserved.
❷本の天地、小口部分の裁断が切りっぱなしの布のようにギザギザしていることについて
本の天地、小口とは背表紙についていない部分のことです。(めくれる部分、本の中の紙の部分です)
普通の本であればめくりやすいように、直線に断ち切られる部分ではありますが、
この本に関してはビリビリと破ったようにギザギザしています。
「シーラと話をしていて、彼女が『自分の作品は端がとても重要』と言っていたことが印象的で、
作品集自体にもその特徴を生かし主張すべきだと思いました。
私は、本とは、シンプルでいて、本質を表現するものでなくてはならないと思います。」
Source: http://www.flickr.com. Images via David Cabianca. License: All Rights Reserved.
❸中の文章部分の組みが読み進めるに連れ、フォントが小さくなっていくことについて
読んで文字のごとくです。普通の本であれば、フォントは最初から最後まで均一なのですが...
「これは、彼女が書いた文章の初めの言葉がとても重要だと思って、目立たせたかったので大きくしました。
そして文章を読んでいくうちにどんどん本にのめり込んでいくことを誘発するために
どんどん文字を小さくしていきました。」
ここまででもイルマのブックデザインの特異点は十分わかっていただいたと思うのですが、
やはり普通の本ではやらないデザインについて出版社とはかな〜〜〜りもめたそうです。
まず、出版社は汚れる白い本を出版したがらない。
本の売れいきやわかりやすさを気にして、表紙は白くなんてしない。
コストがかかりすぎる紙の加工はもってのほか。
そしてフォントがバラバラな本なんか普通じゃないし、シーラが気にいるはずはない。彼女は「嫌」というだろう。
(結局、それは出版社の早合点でシーラ自身は気に入ったんだそうです)
出版社の言い分も十分わかるものではありますが、彼女は自分のデザインを信じ、押し通しました。
そうして出版社とは、途中で音信不通になってしまったこともあったとのこと。
でも、彼女はシーラとともに、彼女の世界観を表す作品集のデザインを続けたんだそうです。
「デザイナーとは、自分が信じるものがある場合は、
時にそれを守り抜くために戦うべきだと思います。」
その姿勢に出版社も折れたのか、上記の特徴を持った「特異」な作品集は出版され、
その出版社の中でも一番売れるベストセラーとなったそうです。
彼女のデザインのすごいところは、
本の内容で面白いと思った要素を、シンプルに大胆に表現するところだと思います。
そして本を読む人のことや、状況、読んでいく時間軸など様々な要素を加味しながら
デザインされているためその大胆さが全て納得できるところです。
こればっかりは実際手にとってみなくては、十分説明することはできません。
機会があれば、彼女の作品を、ぜひ手に取っていただきたいと思います。
そういえば、今回のTokyo Art Book Fair 2015では実際に彼女の本を手に取ることができる展示ブースがありました。
初期の彼女の本は、もうなかなか手に入らない状況の中、100冊を超える作品が並ぶ展示は感動ものでした。
こちらは彼女の一番最初の作品。
Nederlandse Postzegels(1987)
和綴じ製本で、文章の縦横が混在していたり、
本の小口まで印刷が及んでいたり、
本来はめくれない裏紙の部分にまで印刷が施されています。
彼女曰く「このころは若かった...」とのことで、もう今の彼女にはできないデザインなのだそうです。
Every Thing Design: The Collections of the Museum of Design Zürich (2009)
今回は彼女の作品のプロトタイプも展示されていて、それもなかなかないことなので、とても良い展示でした。
私も実物を持っているチューリッヒデザイン美術館の所蔵品集のプロトタイプも置かれていて感激。
MoMAに所蔵してある彼女の作品はこちらから見ることができます。
言語もわからないのにこんなにワクワクさせてくれるなんて、
書籍の電子化が進む中、彼女の作品は電子化では得られない体験や楽しみを与えてくれます。
私の拙い英語力ではまだまだ聞き取れないところもあり、
上記の和訳も拙くて申し訳ありませんが、
講演会に行ったことはとても有意義なお休みの過ごし方でした。
芸術の秋を満喫してきた小牧でした。